”あなた、その川を渡らないで” という、韓国の映画が、7/30から上映され始めました。
江原道横城郡(カンウォンドウフェンソン)の古時里(コシリ)という小さな村で、
仲睦まじく暮らす結婚76年目の98歳のおじいさんと89歳のおばあさんの日々の生活を、
おじいさんが死んでしまうまでの15ヶ月間、村の四季の移り変わりと共に紹介した、
ドキュメンタリー映画です。
2014年11月27日、韓国で小規模公開されたのにもかかわらず、
あっという間にその感動は口コミで広がり、
ついには、昨年末韓国で、10人に1人は観たことになるほどのヒットとなりました。
それで世界各国でも紹介される運びとなったようです。
韓国で、国立民俗博物館、民俗村、河回村(ハフェマウル)等を訪れ、
韓国の文化、慣習、伝統的な佇まいに触れてきたばかりなので、
これはいい機会だと思い、昨日8/1、私も観に行ってきました。
映画の中で、居間でしんどそうに横たわっているおじいさん・・・
その居間の並びにある土間の釜戸で、
おばあさんは、あの世で着られるようにと、
おじいさんの衣服を焼いているシーンがあるのですが、
その間取りが、まさに民俗村、河回村(ハフェマウル)そのもので、
旅行してきたばかりの私には、手にとるようにわかりました。
旅行に同行してくれた建築家中村好文先生がおっしゃっていた、
『「人の暮らし」と「住まい」が背中合わせになっているような家』
というのをまさに実感いたしました。
先生はまた、『結局のところ「人ってなんだろう? 人の暮らしってなんだろう?」
ってことを考えるのが住宅建築家の仕事だと思うんです。』と、
著書の中でおっしゃっていらっしゃいましたが、
この老夫婦を観ていて、私は改めてその問いを考えました。
私は生活が相反する二人と同居しております。
物に囲まれた80歳の母と、
物は、世界各国を旅してきた友達みたいなバックパックの中に入るだけでいいという24歳の娘・・・
それはまるで過去と未来のようでもあります。
どちらかというと物に囲まれた80歳の母の生活を、今まで軽蔑しておりましたが、
このおばあさんと同じく、現在、父との思い出の中で暮らす母には、
その一つ一つが生きてきた証しであり、
またそれは、バックパックを背に、一歩一歩歩いてきた娘の歩みと、
何ら変わらないのではと、この映画から思いました。
この映画の監督が、この老夫婦を撮る決め手となったこととして、
映画のキャラクターとして日頃から思う、
3つの基準を兼ね備えていたということをあげていました。
1つは異国的であること。2つ目がユニーク、独特であること。3つ目が普遍性を持っていること。
これは、こと住宅においても同じではないでしょうか?
特に2つ目、ユニーク、独特であることは、プロとしての力量が問われるところ。
そして3つ目の普遍性・・・
中村好文先生の、『結局のところ「人ってなんだろう? 人の暮らしってなんだろう?」
ってことを考えるのが住宅建築家の仕事だと思うんです。』ということと、相通じると思います。
普遍的なものは、人々の感動を生むのでしょう。
舞台でもないのに、映画には珍しく、上映後の会場内は、拍手喝采でした。(西野博子)