可喜庵では「可喜くらし」と題して、第一線で活躍中の芸術家や写真家、建築家などによる講演会を開催。今年度は「旅」をテーマに、これまで2回の可喜くらしを催しています。
第3回目となる今回は写真家・映像人類学者の港千尋さんをお招きし、先週末の12月9日に行いました。その時の様子をご紹介します。
今から30年以上前、大学卒業後に単身南米へ渡り旅をしながら膨大な枚数の写真を撮ったことが、写真家としての始まりだったという港さん。今回は、「旅と記憶」というテーマで、モンゴルと台南(台湾南部)の様子をスライド写真と共に紹介してくださいました。
しかし、話は単純なツーリズムを語るものではなく、「場所」と「非場所」について象徴的なスライド写真と合わせて進んでいきます。
言葉だけ聞くとちょっと難しいのですが、場所とは人と人、人と物の間に固有の交流がある所で、街や村の広場や地域の祭事などが行われてきた寺社などが挙げられます。地域の木材や土などで作ったバナキュラー(土着の)な建築物もそうですね。
一方の非場所は、全国どこにあっても同じ佇まいで、人に利用されるけれど前者のような固有の交流が生まれない場所。空港や高速道路、チェーン店のスーパーやホテルのほか、スマホなどのITメディアのディスプレイも含まれます。
場所は人の思い出と結びつき記憶に刻まれる存在で、非場所はそうなりにくい。しかし、私たちが好むと好まざるとにかかわらず、今、世界的に非場所が拡大を続けている事実を、港さんの講演を通して改めて認識させられました。そういえば、鶴川にもチェーン店の看板やコインパーキングが…
そして、「人は非場所の拡大に耐えられるのか?」という提起も。モンゴルで失われつつある遊牧生活と住居のゲルが、依然人々の心のふるさととなっている話は、住まいをつくる鈴木工務店にとって示唆深く、「非場所的な住まいは耐えられない」「心のふるさととなる住まいをつくり街の風景を守ろう」・・・と思うのでした。
今年度の可喜くらしは残すところあと1回。3月に建築家の安井昇さんをお招きして「都市の木造を見直す旅」と題した講演会を行います。詳細はHPにアップしますので、ご興味のある方はぜひチェックをお願いします。・・・畑野
港さんの数ある著書の中から。初期の写真集や新書のハードカバー(限定版!)など、貴重な書籍もおもちいただきました。