可喜くらし第5期①『行き・生き』タルディッツ・マニュエル レポート

連続講演サロン・可喜くらし第5期が前週の土曜日(6/8)にスタートしました。

第1回はみかんぐみのタルディッツ・マニュエルさんによるお話しです。テーマは「行き・生き」。フランス生まれカメルーン育ち、日本在住約30年のマニュエルさんによる、仕事(建築)や人とのかかわりを旅・事例を交えてお話しいただきました。

可喜庵にて。スクリーン右手に講演者のタルディッツさん。左手が企画協力の高月さん

仕事の事例を「ふた旅」として、2つ紹介してくださいました。

ひとつは、瀬戸内国際芸術祭における伊吹島での仕事。もうひとつは、フランスで開催された国際庭園フェスティバルでの仕事。

どちらも、現地でそこに住む人と職人と協力しながら、現場にある資源を用いてアイデアを考え、つくるモノ・コトのお話しです。そして、「ここ」から現場への道程も「旅」なら、現場でのモノ・コトはつくり手にとっても来場者にとっても「旅の出来事」となります。

庭園フェスでは、主催者側との思惑の違いや職人との意思疎通がなかなか図れなかったことなどがあり、当初のデザインより「事件性(庭園への躙口)」が少ないものになったとか。一方、瀬戸内の大工とは、共通言語(モノづくりの考え方など)が持てたことでコミュニケーションがとれたけれど、フランス人大工とは当初は同じ国の人なのに全然通じ合えなかった!(最終的には、職人と建築家で共通言語を見出し、無事通じ合えていました)など、具体的なエピソードも交えてお話しくださいました。

庭園への入口(飛石と躙口)

旅にハプニングはつきもので、だからこそ印象に残るもの、とはよく言います。建築物や庭なども、そこを訪れる人にとっては旅の一部。デザインやコンセプト、モノ・コトの物語に「事件」があれば、つくり手にとっても印象深い経験になるのだなぁ、と、マニュエルさんのお話しを通して感じました。

講演の後、ご参加の皆さんに一言ずつもらいながらの懇親会です

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そして、第1期から可喜くらしの企画協力をお願いしている高月純子さんからも感想をいただきました。

旅についてタルディッツさんのお話は
物理的よりも精神的な距離の旅を中心に、
全体構成が緻密で、形ではない時間や言葉も建築的でした。
なんども思い返す言葉をいただきました。

スーパーフラット混沌の印象の東京のイラストレーションから、
土木交通(インフラ)構造の場の対比・比較分析へ。
ミリやメートルはフランスで生まれた単位ですが、
日本の職人と尺や間の単位の共通言語の往復で壁が溶けてゆき、
精神的に遠いことをだんだんと近しいことにしてゆくプロセスが旅であり、それが建築でもあるのですね。
共通言語と良き共犯者になることで、国籍は超えてゆけることも学びました。

伊吹島の芸術祭にはアーチストではなく、建築家としての立場で、
お金のない、高齢化した、限界集落へと死んでゆく島という場所を
他人事(ひとごと)ではなく、自分事、地域ごと、として引きつけて
地域の人の日常の場をつくる。
建築の矜持(きょうじ・誇り)を示していることも印象的でした。

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可喜くらしも今年度ですでに5期。これまでの講演をアーカイブ化して順次HPにアップしていきたいと思います。

次回の可喜くらしは9月14日(土) 「暮らしの風景 デンマークと日本」です。講演者はランドスケープデザイナーの林英理子さんです。お楽しみに!お申込みは鈴木工務店へ、随時受付中です。