通りからの視線に守られた庭とリビング。大きな吹抜けのある空間に、家族が集う住まいを訪ねました--
周囲の視線から守られた家と庭
バス通りに面した住宅街の入り口を進むと、杉板と濃灰色のモルタルで仕上げた外壁のI 邸が見えてきます。敷地は、南側にレストランの駐車場、西側には通りを挟んで公園があり、周囲からの視線が気になる環境です。そこで、街並みに圧迫感を与えることなく、視線を遮る住まいを提案しました。外壁の杉板張りに合わせた引戸格子を板塀と連続させて、庭と、庭につながるL D K を周辺現境からほどよく仕切っています。
住まい手のI さんご夫婦は、木の家でも「 小屋っぽくならず、洗練された雰囲気 」を求めていました。「 近所だけれどまだ行ったことがなかった鈴木工務店に行ってみようと。大きな吹抜けと本棚のある展示館を気に入りましてね 」とご主人。その後、完成見学会やOB住宅見学会にも参加しながら、家づくりを始めました。
率直な疑問から納得ヘ
「 鈴木工務店の住宅価格ってどうなっているの?と質問したんです。車や建売住宅と違ってわかりにくさがあったので 」とご主人が思い出しながら話してくれました。「もちろん定価はなし。打合せは、設計者と積算担当者と一緒に、課題を一つずつクリアして進めます。営業ではなく建築のプロがコミ ットする姿勢は信頼できました。また、自分たちはリクエストをくさん出すというより、提案に対して要望するタイプだったので時間がかかったかも。同時に建築を知るサポートを受けながら、家のつくり方、手間とコストが具体的に見えてきて。坪単価で括るのではなく、価格は要望や与条件で異なることも理解できました」
信頼関係を築くなかで、設計者の視点でNGを出されたことも。「リビングに収納兼腰掛の造作を要望したけどあっさり却下です。結果的に好きな家具を置けて、なくてよかったと思いますが」と奥様も笑って話してくれました。
暮らしで空間の密度が変わる
今回は、入居後約 1年半での取材です。延床約34坪の木造 2階建て。1階ダイニング上部の大きな吹抜けを中心に、各部屋と居場所がつながります。竣工時は解放感が際立ち、ややガランとした印象でしたが、暮らしが始まるとほどよく密度が高まり、Iさんが求めていた「解放感とこもり感のある家」に仕上がっていました。
吹抜けの天井からは、ルイスポールセンのランプが下がり、食卓をほん のり照らしています。奥様の仕事柄、蔵書がぎっしり 詰まった壁面本棚はインテリアとしての存在感も抜群。天井高さを抑えたデスクコーナーやソファーエリアにそれぞれラグを敷いて、広いフロアを引き締めながら居心地よく設えています。
キッチンのメキシカンタイルは奥様の友人に頼んで現地から直送してもらったもの。濃紺色で、竣工時は少し強い印象でしたが、食器やご夫婦の好きなお酒の瓶が並ぶことで、空間とのなじみも良くなっています。
状況に左右されず、ゆったり過ごすために必要なこと
「外出自粛中も快適に過ごせました。仕事部屋を確保していたので、カフェに行けなくなっても集中できましたよ。あとは、友人を招くのが好きなのですが、今は我慢ですね」と奥様。以前、メキシコから友人が訪ねてきたときには、「木で家をつくるのか !?」と驚かれたそう「あちはコンクリート造がメインで。木の香りも開放的な空間も気に入ってくれました。食卓を囲んで、また皆で談笑できる日が待ち遠しいです」
設計途中で、吹抜けを小さくして個室を増やそうか悩んだそうですが、個室数よりも空間のゆとりを選んでよかったとも。家族や仲間がゆったり集える家に満足しているといいます。
大きな吹抜けは、全館冷暖房・換気システムであるOM X※の効率的な運転にも役立っています。通年で家中を適温に保ち、熱交換換気を行うため、吹抜けが空気の通り道となるのです。
ライフステージや時代の要請、環境の変化などで、家への要求は部分に変わることもあります。でも、それらは子育て期の間取りの変化だったり、物量が増えた際のストック方法だったり、 今回のような外出自粛だったり-- 人生や家の一生では一時的なことである場合がほとんど。その都度、外的要因に家や日常生活が振り回されるのではなく、逆に住む人が大切にしたいことを軸に家づくりをすれば、どんな状況下でも満足のいく「いえ時間」が過ごせることを、Iさんの住まいと暮らしは教えてくれます。