徒然とおる・おもてなし

鈴木亨がコラム連載しているフリーペーパーMY TOWNしんゆり(旧麻生)のバックナンバーから。2015年7月号より「おもてなし」をお届けします。遡ってのコラムになりますが、旅から得た気づきを、コロナ禍の今、改めて共有できればと思います。

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おもてなし

俵屋旅館 gallery 遊形公式サイトより、俵屋外観

創業300余年、伝統を守り続ける京都で最も古い旅館の一つ「俵屋」に一泊しました。江戸中期、石見の国(島根県)の呉服問屋の京都支店として開設され、支配人・岡崎和助の「もてなし上手」が評判となり、石州藩士の定宿となったのがこの旅館の始まり。

通りの風情を邪魔しないこぢんまりした入り口を抜けると、時が濃縮されたような玄関が迎えてくれます。江戸中期からの建物の修復と維持は、日本を代表する京の工務店の手で適時行われおり、古い部分を生かしつつも時代に沿ったデザインになっています。

室内には11代目女将の目に適った物だけを客のために設え、妥協なしの和と洋の本物がさり気なく置かれた心地良い空間に。天井の低い和紙張りの読書室には、煙草の煙を燻らせ、二人だけで庭を眺めながら濃密な時を楽しめる小座敷も用意されていました。

実用に美的景観が加わり一体となった空間、そして心休まる仲居さんの立ち居振る舞いと心配り。一時の満足を超えて、まねをしたくなる俵屋の「時と空間」のもてなし、これこそ真の「おもてなし」なのではと思いました。

まずは身近なところから。季節の花を素敵な花瓶に挿してお気に入りの場所に飾り、お客様やご家族、そしてご自分に「おもてなし」をしてみてはいかがでしょう。(鈴木)

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コラム執筆は今から6年前の2015年。2003年の政府による観光立国宣言からのインバウンド黎明期を経て、以前より観光地で外国人をたくさん見かけるようになり「爆買い」なる言葉も耳にし始める頃でした。各地の名店、名旅館も、時代の流れと共に成長したり、ゆるぎないエッセンスを発信し続けたりと、激動の時期を過ごしたことでしょう。そして今、コロナ禍を迎えています。今後、また自由な旅が可能になった折には、その時代時代にしか味わえない、空気、空間を堪能しに出かけたいものです。そして、観光ほか、各地のアフターコロナ復興を応援したいですね。(畑野)※blogのアイキャッチ画像(HPトップページ掲載)は鈴木工務店モデルハウス「家の展示館」のおもてなし。和室、床の間の掛け軸と、お施主様にいただいた満開の河津桜です