木は生きている 徒然とおるの建築まち歩き

季刊誌『かきのたね』で連載している「徒然とおる」2021年夏号から。徒然とおるの「まち歩き」をおたのしみください。

JR「高輪ゲートウェイ」駅のコンコース。膜屋根は折り紙のイメージ。鉄鋼構造材の一部に福島県古殿町、宮城県石巻市などの国産杉材が貼られています。

ガラスと木材を多用した「高輪ゲートウェイ」駅

JR山手線の新駅「高輪ゲートウェイ」駅を降りて台地側に歩くと泉岳寺があり、高台には旧皇族、華族の屋敷、三井、三菱の迎賓館があります。この地は、品川沖から東京湾を一望できる港の見える丘でした。武蔵野崖線の東縁で、山手線は埋め立て地を走っています。新駅の開発で、明治5年鉄道開通当時の築堤遺構が発見されました。工事中で近寄っては見学できませんが、石造の築堤を走る様子は錦絵にもあります。

昨年誕生した新駅は山手線では49年ぶりで、駅舎は建築家隈研吾氏の設計です。ガラスと木材をふんだんに使用し、「折り紙」をモチーフにしたデザインが特徴です。周辺再開発も24年ごろに街びらきの予定で進行中です。コンコースを見上げると確かに鉄鋼構造に木材がはめ込まれ、折り紙の様な膜屋根が目につきます。床材は木を模したFRP製に興ざめですが、壁、天井には杉の木が貼られていました。

天井と壁にも杉板が貼られています。

「えー、杉材?」杉は柔らかく傷つきやすく、気候で変化も大きい材です。恐る恐る触ってみました。更に、爪を立て強く押してみたのですが、まったく無傷。これは「木」?それとも加工された「建材」?それとも・・・?と興味が増すばかり。しかし、見た目は「杉の木」でした。日頃の木材のイメージからはかけ離れた素材としか思えませんでした。

無垢材の特徴を知って扱う

稀に、施主から住まいの木部について「すごい音がした」「横に割れた」「キズがついた」、挙句には「日に灼けた」と問い合わせがあります。

どれほど時間が経過しても、乾燥させても木は生きています。「木は生き物」だと常に思っています。

梅雨の湿度上昇で、自然の木に多くの変化が現れます。高湿度で木幅が伸びてお互いがせって盛り上がることもあります。逆に乾燥時期は縮み、隙間ができることもあります。木は、動き、割れ、捻じれを繰り返して、自然になじむのですが一枚一枚に個性があるようで予測不能な行動を起こしてくれます。

各種建物で木が使われることは、気持ちも和らいでよいのですが、自然木とはかけ離れた素材として使用され、傷つかない、割れないのが普通と思われては木も迷惑でしょう。木はデリケートです。心して扱い、気長に付き合っていただきたいです。(鈴木)

下写真:今回まち歩きで訪れた/泉岳寺山門/東京さぬき倶楽部(設計/大江宏)/三井倶楽部(設計/ジョサイア・コンドル)