子育てを終えたご夫婦が選んだのは、住み慣れた三輪緑山で必要十分な広さにダウンサイジングした家でした。
規格住宅から一転、南北の風景を楽しむ自由設計の家に
新緑の季節、三輪緑山のケヤキ並木沿いに見える大屋根の家を訪れました。
周辺はかつて大手不動産会社が宅地開発をした閑静な住宅街です。施主のTさんご夫婦が長年住んでいた家では、経年ににより水回りの不具合が目立ちはじめ、またお子さんが巣立ったことで40坪程の空間を持て余していたことから建て替えを決めました。
ご夫婦が選んだのは、かねてからの夢だった自由設計の家です。とりわけインテリアに関心の強い奥様が心に描いていたのは、「構造材現し」「古民家」「木の質感」「漆喰壁」「自然素材」といったナチュラルなテイストでした。当初、建築家の規格住宅に惹かれていたものの、鈴木工務店に相談すると好みのテイストを維持したまま土地条件に合うプランにブラッシュアップされることになったといいます。
こうして完成したのは南北に抜けのある平屋のような2階建て。南立面に大屋根がかかり、北側に町田市の優秀街並みに選ばれたケヤキ並木を望みます。
冬暖かく夏涼しい、しかも光熱費は約1/3に
一般的に敬遠されがちな北面の大開口を可能にしたのは樹脂窓+トリプルガラスの存在です。気密性と断熱性が高いため、冬でも窓辺でひんやりとした空気をほとんど感じないそうです。
冬の寒さと夏の暑さ--。実はこれこそがTさんご夫婦の家づくりの最大の焦点でした。
「とにかく寒くて、光熱費も高い。以前の大きい家をフルリフォームして温熱環境を改善するよりも、建替えでダウンサイズしたほうがコスト的にいいし、あと20~30年気持ちよく過ごせるのではと思いました」
約30坪となった家は、コンパクトながらも勾配天井と吹抜けで解放感があります。リビング、ダイニング、キッチンから個室、水回りまですべてフラットな回遊動線で結ばれ、生活のほとんどが1階で完結するつくりです。
プライベートな空間となる個室は壁で隔てず、両面使用ができるクローゼットで間仕切りし、空間の無駄を省きました。
懸案事項だった温熱環境はダクト式エアコン1台で効率的な冷暖房が可能となっています。実際に暮らしてみた感想を伺うと、率直に「快適です」とご主人。
「温度のことはある程度想像していた通りだったんですよ。驚いたのは『湿度』。夏も60%くらいなので、断熱材や木材でうまく調湿されているんだなと。梅雨時でも床はさらさらです」
逆に、冬は乾燥気味になるので、洗濯物の室内干しもよく乾きます。
ちなみに、エアコンの温度設定は夏は27℃。冬は外気温(最低気温)と日射を確認して調整し、常に22~23℃にキープしているといいます。冬と夏のピーク時を以前の家と比較すると、光熱費は約1/3になったのだそうです。
自由設計で叶えたシンプルで上質な暮らし
2年前に仕事をリタイヤしたご主人は現在、在宅ワークの奥様に代わって夕食づくりを担当。便利なミールキットを使って少しずつ料理の幅を広げています。建て替えと同時に庭の草花を入れ替えたこともあり、以前はできなかった庭仕事に割く時間も増えました。
奥様は入居に際して不要なものを断捨離し、この家に合うこだわりの家具を数を絞って新調しました。長らく愛蔵していたアート写真や建築本、工芸なども今は見える場所に飾って暮らしを楽しんでいます。
二度目の家づくりだからこそできたシンプルな住まいの整え方。夫婦ふたりの新しい生活がここからはじまります。
text / Rie Shimizu
photo / Chika Suzuki
発刊/2022年6月
竣工当初の写真はこちらのWorksの「大屋根とけやき並木」でご覧になれます。