石積みや緑の垣根を守り、育てる。 地域と緩やかにつながる子育て世代の家をご紹介します。
石と緑の垣根がつながる 既存を生かした家づくり
多摩丘陵にある坂のまち、玉川学園。その急坂を登った先、庭木の緑と家々が美しい調和を見せる住宅街に、新たに土地を得たのは30代子育て世代のJさんご家族です。
「緑が残る、落ち着いた住環境が決め手でした。『土地を大事にしてくれる人にきてほしい』という話は聞いていたので、計画当初から既存を生かした外構にしようと思っていました」
鈴木工務店と付き合いの長い地主様からのお声がけがきっかけで縁を結んだ家づくりです。そのまち並みへの思いを汲むように、建物正面の(東隣の家から続く)石積みや一部植栽は既存を再利用することになりました。実はその隣家も約8年前に同じ流れで鈴木工務店が手がけたものです。
住んで分かった高気密・高断熱のメリット
家づくりは庭との距離感を重視して1階にリビングを置くプランとしました。リビングダイニングは階段吹き抜けと一体化した開放的な空間。上下階の窓からは遠く横浜ランドマークタワーも見えます。
吹き抜けがあると冷暖房効率が心配ですが、断熱性能が高い樹脂窓のため、昼間の暖気を室内にとどめておくことができ、外からの冷気の侵入も防いでくれます。小屋裏のホームエアコン1台で冷暖房が可能で、ダクトを通じて床下、1階天井、2階天井と家全体に空気を送り届ける仕組みです。
「住むまで〝暖かさのありがたみ〞が分かりませんでしたが、以前の賃貸暮らしを振り返ってみると実は地味にストレスだったのだと気づきました。おかげさまで去年の冬はとても快適で毛布1枚で寝られるくらい。就寝時、子どもたちにベストを着せることもなくなりました。エアコンの風が直接当たらないので肌の乾燥も気にならなくなりました」
忙しい子育て世代の合理性 大切にしたい情緒
将来を見越した空間や設備などの合理的な選択は、子育て世代ならでは。現在5歳と2歳のお子さんは大人の目の届く1階のフリースペースで過ごしていますが、いずれは2階の多目的ホールを2部屋の子ども室に分ける想定です。
また家族が集うキッチンには作業スペースが広くとれるII型のシステムキッチンを採用しました。
「造作キッチンも憧れましたが、一旦子育て中は機能面と衛生面を優先しようと。回遊動線で家族みんながキッチンに立てるので気に入っています」
料理好きなご夫婦を見て育ったお子さんたちは自然とお手伝いするようになり、最近では一緒にマフィンやアップルパイなどおやつ作りも楽しんでいるそうです。
一方で夫婦各々の個室もしっかり確保しました。リモートワークがメインの奥様は、平日は1階のパントリー兼ワークスペースで仕事に集中しています。
「子どもの幼稚園からのお知らせがリビングにあると散らかって見えるので、専用の収納場所ができて良かったです。時々気分を変えてダイニングテーブルや2階の多目的ホールに移動することもあります」
デザイン系の仕事をするご主人は家づくりを始めてから『家を整えること』自体が趣味になり、今は家具のDIYや庭づくりに夢中なのだとか。
「庭のジューンベリーの隣にフェイジョアという果樹を植えたり、息子と一緒にブルーベリーを植えたり。レモンの苗木も用意しています。近所の人も庭の成長を楽しみにしてくれているので、ユズやジューンベリーなど受け継いだ植栽を大切に育てながら、新しいものも少しずつ増やしていくつもりです」
石と緑の垣根を守り、育てることで新たに紡いだ地域との縁。家も庭も家族の成長も、焦らずじっくり時間をかけて育んでいくのがJさん流です。
text/Rie Shimizu
photo/Shinjiro Yamada
発刊/2023年3月
竣工当初の写真はこちらのWorksの「くらし広げる家族の家」でご覧になれます。