季刊誌『かきのたね』で連載している「徒然とおる」2022年冬号から。徒然とおるのまち歩きをおたのしみください。
異国情緒を味わう山手散策
横浜「港の見える丘公園」はデートコースだった記憶があります。幕末に自由貿易が認められて全国に5港が開港され、横浜にも居留地が設けられました。当初は、同公園のある山下地区のみだったようですが、のちにブラフ(崖)と呼ばれた尾根道の山手本通り一帯が、外国人居留地として1866年に開設。関東大震災後は外国人の復興住宅として、1874年には244区画、約27万坪の広さに達し、建てられた順番に地番がふられていきます。今は、当時の洋館は一つとして現存していません。
元町・中華街駅を出て、首都高速狩場線の下にあるアールデコ風震災復興橋の谷戸橋からスタートです。同公園内フランス山の麓に、世界最初期の鉄骨建造物でバルタール設計・パリ旧中央市場(レ・アール)の地下鉄骨骨組みが復元されています。各スパンの中央にはトップライト用の開口があります。フランス山を登ると、1927年築の房州石ブラフ積みで知られる気象台が(閉館中でした)。その先には1937年築の英国総領事公邸(イギリス館)が、英国流のプランと意匠を厚さ400ミリのRC造で体現しています。設計は当時上海にあった大英工部総署です。
隣の山手111番館は半地下のRC造基礎の上に、吹抜けを備えた小ぶりな木造が載る洋館で、ローズガーデンを見下ろす建物です。地下和室部分は喫茶スペースになっておりEnglish Teaとケーキを堪能。休日にはローズ味のアイスクリームを求めて長い列ができるとか。1927年に建設された外国人向け復興木造アパートメントハウスの山手資料館は、左右対称プランと広い3LDKを持つ4戸の2階建で、設計者は朝香吉蔵です。当時すでに外国人向けの賃貸住宅を設計していたことに驚きです。山を下ると、フランス人実業家アルフレッド・ジェラールの「水屋敷」がありました。豊富な湧水を活用し船舶への給水事業を成功させた、地下貯水槽が整備されています。明治初めに外国人向けに開かれた元町商店街を楽しんで帰ってきました。(鈴木)