大人世代の住み替え。世田谷の住宅街に「職住遊」を叶える注文住宅を建てる。鈴木工務店の季刊誌『かきのたね』vol.51より

趣味も仕事もたのしむ大人世代のための家を紹介します。

1階リビング・ダイニング。杉無垢板のフローリングと国産杉の梁現しで木のぬくもりを感じられる空間に。愛用の家具や雑貨をセンス良く配されています。

海外生活、子育てを終え、夫婦の「職住遊」を考える

竣工からちょうど1年が経過したKさんご夫婦の住まいを訪ねました。梁現しの木の温もりあふれるリビングダイニングは年代物のインテリアと調和し、新築ながらほっと落ち着く雰囲気です。「古くなって良さが出るものが好きなんです」と奥様。古道具屋巡りが趣味で、時を経て味わいが増す木の家にも自然と惹かれたといいます。

ご主人の仕事の関係でオランダで生活していたご家族は、仕事に一区切りついた4年前に帰国。ご主人は今もアイスランドの会社に籍を置き、都心のシェアオフィスと自宅でのリモートワークを使い分けながらの業務。奥様は元々英語でヨガインストラクターの資格を取得していましたが、帰国してから確認の意味も含め、改めて日本語でヨガを勉強し資格を再取得。オンラインで指導もしていたため、二人の職と趣味が両立する場が求められました。また基本は二人暮らしですが、海外と地方で暮らすお子様が帰省することも想定されました。
「海外生活が長かったこともあり、帰国して一旦は様子見で賃貸で暮らしていました。日本の生活にも慣れ、下の子の進路が決まった頃に本格的に家のことを考え始めました」

既存のブロック塀を撤去して街並みに開いた外構に。板塀で適度に視線を遮りながら、奥に細長い敷地への風通しも確保。

初めての家づくりで知った、自由設計の苦労と充実感

ご夫婦にとって初めての家づくりは手探り状態からスタートしました。エリアにこだわりがなかったことから「空港に遠くない」「お互いの実家に通える」といった最低条件で絞り、最後は消去法で決めたといいます。家づくりのパートナー選びもハウスメーカー、設計事務所(建築家)、工務店と一通り検討したうえで、モデルハウスの木の家を気に入り鈴木工務店に依頼しました。寒がりな奥様にとっては、住まいの温熱環境も決め手となりました。

依頼先が決まっても一安心とはいかず、いざ打ち合わせに入ると今度は自由設計の選択肢の多さに圧倒されます。
「間取りや動線、窓や照明の配置、壁紙やタイルなどの素材に至るまで一つひとつ決めることが多くて大変でした。〝全部が自分の好きにできる状況〞が逆に難しくて」

その後の建築現場では設計士や大工の闊達なやりとりが印象的だったとご主人。
「バルコニーの穴や階段横の飾り棚など、その場で生まれた斬新なアイデアが加えられていく様子が面白かったですね。ほかにも抜け感、目線、陰影など、自分たちでは考えなかった視点も教えてもらいました」

階段との界壁をスケルトンの棚にしてディスプレイを楽しんでいます。

玄関土間の引き戸はリビングへ、ストックヤード側はキッチンへ直接つながる動線計画です。

既存の外構に使用されていた大谷石を庭の敷石に再利用。コンパクトながら植栽を施し、道路と建物の間に潤いのある緩衝地帯をつくっています。

趣味と仕事が両立した、経年変化も楽しい木の家

こうして二人のセンスにプロの遊び心が加わったこだわりの住まいが完成しました。1階は庭木を眺められるリビングダイニングと北側和室のゆったりとした空間。2階は主寝室と個室、水まわりの構成で各所に汎用性の高いデスクや棚を設けました。書斎はご主人のワークスペースでオンオフ切り替えられる専用個室。南側洋室は奥様のヨガスペースにもなる多目的な部屋です。

また住まいの快適さを決める温熱環境は、建物の気密・断熱性能を高めて小屋裏のエアコン1台で家中の冷暖房を実現。階段とダイニング上部の吹き抜けを介して家全体に空気が巡り、室温のムラを防ぎます。住み心地を伺うと、「どこにいても均一な温度で過ごしやすいと思いました。素足でも年中快適です」

休みの日は奥様はヨガ、ご主人はストレッチや筋トレ、映画鑑賞と思い思いに過ごすご夫婦。最近では既存から引き継いだ梅木の手入れや時折訪れる鳥たちのための巣箱作りなど、庭にかける時間も増えました。セカンドライフを見据えつつも、まだまだ現役世代。趣味に仕事に充実した二人の暮らしを紡ぐ木の家は、経年変化も楽しみな大人の住まいです。

ダイニングの上は吹抜けに。南北に細長い敷地に建つため、建物の奥へ光をまわす計画です。

1階の北側奥にダイニングに隣り合う小上がりの和室を用意。地窓を配し植栽を眺めます。来客時は襖をしめて客間にも。

奥様が選んだシステムキッチンに造作の収納家具を合わせました。突き当りの引き戸の奥は大容量のストック棚に。さらに左手奥は和室側からもアクセスできる納戸になっています。

2階の階段ホール。杉の構造材や床板が経年と共に飴色に変化していくのが楽しみです。

text/Rie Shimizu
photo/Shinjiro Yamada
発刊/2023年5月

竣工当初の写真はこちらのWorksの「くらしを紡ぐ」でご覧になれます。