空を近くに感じられる全面ガラスと広い吹抜けをもつ居間が特徴のOMソーラーの家をご紹介します。
時間と暮らしの変化に呼応する子育て世代の家
町田市北西部の丘の上に建つK邸を訪れました。竣工から5年が経ち、玄関脇のヤマモモの木はひとまわり大きく育っています。
当時は奥様のお祖母さまとご夫婦、お子さん2人の3世代で暮らす家として計画されましたが、2年前にお祖母さまがご逝去。その1年前には新たにお子さんが誕生するなど家族構成に変化がありました。
今はお子さんがのびのび過ごせるよう家族ですべての空間を共有し、お祖母さまの寝室だった部屋は建具を開放してワンルームのように使用しています。
子育てしやすい環境を求めてKさんご夫婦が土地探しを始めたのは2017年のこと。当初高尾や相模湖周辺など〝自然豊かな土地〞を探していましたが、予算等の条件に合うものがなかったため断念。現在の土地はネット検索で見つけたもので、奥様よりもご主人のほうがこの見晴らしに一目惚れだったそうです。
「夫と話しているうちに自然のすぐそばで暮らすのもいいけど〝自然を眺める暮らし〞もいいなと思いました」
土地と並行して依頼先も探し始め、最終的にOMソーラーやパッシブデザインの本がきっかけで鈴木工務店に決めました。
「吹抜けやキャットウォークは鈴木工務店のモデルハウスを見てプランに取り入れたいと思いました」
打ち合わせではこれらのほか「大窓」「階段本棚」を要望し、同時に同居されるお祖母さまにとっての快適さも重視しました。
「1階はバリアフリーの空間を希望しました。祖母の部屋(寝室)とトイレを隣にしたことで、実際ヘルパーさんに介助していただいた際もスムーズに動けました。祖母のためになることはいずれ自分たちのためにもなるので、長い目で見ても良かったです」
外とつながり家族とつながる 何気ない毎日が幸せ
K邸は太陽熱を利用するOMソーラー、太陽光発電を搭載したゼロエネルギー住宅です。家の中は縦にも横にもオープンなプランとなっており、どこにいても家族のつながりを感じることができます。見どころは南側の大開口。居間にいながら富士山や丹沢山系が連なるパノラマの景色を楽しめます。
窓は断熱性能の高い樹脂窓で夏場は南面のパーゴラにより強い日差しを遮り、太陽高度が低くなる冬場は日射熱を室内に取り込みます。エアコンの温度は夏は28℃、冬は23℃設定で、寒さが苦手な奥様もとても快適に過ごされているそうです。
理想の家のイメージを求められた際、アントニン・レーモンド設計の「旧イタリア大使館別荘」を挙げたKさんご夫婦。広縁代わりの居間、風景を取り込む大窓はここから着想を得たものです。また、建築家の津端修一さん(レーモンドに師事)と妻の英子さんの日常を追ったドキュメンタリーや書籍の影響で、自然と共生する簡素な暮らしにも憧れているとお話しされていました。
「本当は平屋建てでもいいぐらい。いずれ子どもたちは出て行くから、個室を設けて大きく建てる必要はないと思っていました」
2階に勉強スペースをつくっても結局お子さんたちは居間に集まってしまうとのこと。取材中も自家製の梅のはちみつ漬けを頬張ったり、ナイフで器用に鉛筆を削ったり、家族の気配がある場所で自由に過ごす様子が伺えました。
家中至るところに飾られた工作作品は、長いようで短い子育て期間を愛おしみながら過ごしている証。将来を見据えつつ、戻らない今という時間を大事に積み重ねるKさんご家族の姿に幸せな住まいのあり方を教えてもらいました。
text/Rie Shimizu
photo/Chika Suzuki
発刊/2023年9月
竣工当初の写真はこちらのWorksの「まち、自然へ つながる三世代のいえ」でご覧になれます。