【50】渋谷川源流を訪ねて? 徒然とおるの建築まち歩き

季刊誌『かきのたね』で連載している「徒然とおる」2023年春号から。徒然とおるのまち歩きをおたのしみください。

首都高速道路の傍に残る昭和初期頃の民家は、今はスタジオに。

渋谷川源流を訪ねて?

まだ肌寒い2月中旬に渋谷川源流を訪ね、新宿御苑まで出かけました。集合は千駄ヶ谷駅。改札を出るとカニの甲羅を被ったような東京体育館が道路向こうに鎮座しています。そして、外苑外周通りを東に進むと国立競技場が現れます。緑の樹々を挟んで建つ2つの建物は心地よい風景になっています。2020年のオリンピックに向けて整備された公衆トイレは高さ7.5m、内部の太い梁で吊られた箱形で、LGBT時代を反映してか男女の分け隔てが緩すぎる作りのせいか、利用者は男ばかりでした。

国立競技場の公衆トイレ。RC造の洗出し仕上げに囲われた空間に天空から光が差します。

 

鉄骨橋梁は戦前昭和の時代を反映しています。今回見たのは外苑橋とJR高架橋です。外苑橋は日本最初期の道路の立体交差で、震災復興のひとつとして1928年(昭和3年)に東京市が設計した門型ラーメン橋です。JR高架橋も昭和初期ですが見た目は違い、ガーター橋と呼ばれる形です。2つの橋は熱せられたリベットを専用の工具で締めて鉄骨を接合しています。リベット打ちは躍動感がありましたが、ひどい騒音だった記憶があります。

門型ラーメン構造の外苑橋。

外苑橋と首都高に挟まれた橋脇に昭和初期建造と思われる白いギリシャ風民家が残っています。中廊下から推測するにアパートでしょうか。取り壊されることなく改修され、今もスタジオとして使い続けられています。

新宿御苑には3つの門があることを知りました。外苑西通りに面した門はフランス式整形庭園の入り口で、開かずの正門、看板もありません。平屋のハーフティンバーでスパニッシュスタイルの門は大木戸門。そして、新宿駅寄りの旧新宿門はレンガ造で壁補強のフライングバットレスが見られるおとぎの国の洋館風です。ともに1927年(昭和2年)築で当時好まれたデザイン性の建築と思われます。気づけば、苑内の渋谷川源流は見ず終いでした。(鈴木)

新宿御苑 正門。

新宿御苑 大木戸門。

新宿御苑 旧新宿門。